ボールペン画で、日々、シュルレアリスム的な作品を作っている天北竹みのるる尾です。
ダダイズムとシュルレアリスムという言葉を聞いたことはあっても、実際にどう違うのかを説明するのは意外と難しいものです。
どちらも20世紀の美術史に大きな影響を与えた芸術運動ですが、生まれた背景も目的も異なります。
この記事を読んでいただくと、2つの運動がどのような時代背景から生まれ、何を目指していたのか、そしてどこが共通していてどこが違うのかを、順を追って理解していただけます。
美術史の知識がなくても大丈夫なように、できるだけやさしい言葉で説明していきます。
最後には、私自身がボールペン画で取り組んでいるシュルレアリスム的な表現についてもお話しします。
はじめに─なぜこの2つは混同されやすいのか
ダダイズムとシュルレアリスムは、どちらも常識や理性を疑うところから出発した芸術運動です。
そのため一見似たものに見えますが、生まれた理由も向かっている方向も、実はかなり違います。
ダダイズムとシュルレアリスムが生まれた時代背景
ダダイズムは1910年代半ば、第一次世界大戦のさなかに生まれました。
戦争という理不尽な現実を前に、それまでの理性や秩序を重んじる価値観そのものを疑う空気が広がっていったのです。
シュルレアリスムはその後、1920年代に入ってから生まれました。
ダダイズムが壊した後の場所に、新しい表現を築こうとする動きとして登場したのがシュルレアリスムです。
この記事でわかること
この記事では、ダダイズムとシュルレアリスムそれぞれの成り立ちと目的、代表的な作家や作品、そして2つの違いを表を使って整理します。
美術用語が苦手な方でも、順番に読んでいただければ全体像がつかめる構成にしています。

ダダイズムとは何か
ダダイズムは、既存の価値観や芸術のあり方そのものを壊そうとした運動です。
まずは、なぜそのような過激とも言える発想が生まれたのかを見ていきます。
第一次世界大戦と「理性への不信」から生まれた運動
ダダイズムは1916年頃、スイスのチューリヒで始まりました。
第一次世界大戦という、理性が生み出したはずの近代文明が大量殺戮につながってしまった現実を目の当たりにし、当時の芸術家たちは強い衝撃を受けました。
理性や論理を積み重ねた先に戦争があったのなら、その理性自体を疑わなければならない。
そう考えた作家たちが集まり、既存の秩序や言語、価値観を壊そうとする表現を始めたのです。
既存の価値観や芸術そのものを壊す「反芸術」という考え方
ダダイズムの大きな特徴は、「反芸術」という姿勢にあります。
美しいものを作る、意味のあるものを作るという、それまでの芸術の前提そのものを疑ったのです。
偶然性を取り入れた制作や、既製品をそのまま作品として提示する手法などは、いずれも「芸術とは何か」という問いを読者や鑑賞者に突きつけるものでした。
代表的な作家と作品
ダダイズムの代表的な作家としては、マルセル・デュシャン、トリスタン・ツァラ、マン・レイ、ハンナ・ヘッヒなどが挙げられます。
中でもデュシャンが既製の便器に署名だけを施して発表した作品は、「何を芸術と呼ぶのか」という価値観そのものを揺さぶった象徴的な例として知られています。


シュルレアリスムとは何か
シュルレアリスムは、ダダイズムとは違い、壊すことよりも新しい表現を築くことに重きを置いた運動です。
その鍵となったのが「無意識」という概念でした。
フロイトの精神分析学と「無意識」への注目
シュルレアリスムは1924年、アンドレ・ブルトンが「シュルレアリスム宣言」を発表したことから本格的に始まりました。
背景にあったのは、フロイトの精神分析学です。
人間の理性の奥には、本人も気づいていない無意識の領域が広がっている。
その無意識をそのまま表現できれば、理性による制約を超えた自由な表現が生まれるはずだと考えられました。
自動筆記・デペイズマン・デカルコマージュなどの技法
シュルレアリスムの作家たちは、無意識を引き出すためにいくつかの技法を編み出しました。
頭で考えずに手を動かすままに文章や線を書き続ける自動筆記、日常的なものを本来ありえない場所に置くデペイズマン、絵の具を紙に挟んで偶然の模様を作るデカルコマニーなどが代表的です。
これらの技法に共通しているのは、作者の意図や計算をできるだけ排除し、偶然や無意識に表現を委ねようとする姿勢です。
代表的な作家と作品
シュルレアリスムの代表的な作家としては、サルバドール・ダリ、ルネ・マグリット、マックス・エルンストなどが挙げられます。
ダリの溶けた時計を描いた作品は、現実にはありえない光景を精密な描写で描くことで、夢の中の光景のような不思議な説得力を持たせている点が特徴です。

ダダイズムとシュルレアリスムの違いを表で比較
ここまで見てきた内容を整理するために、2つの運動の違いを表にまとめます。
目的の違い(破壊か、再構築か)
ダダイズムの目的は、既存の価値観や芸術のあり方を否定し、壊すことにありました。
一方シュルレアリスムの目的は、無意識という新しい領域を通じて、理性だけでは届かない表現を築き上げることにありました。
壊すことに重心を置いたダダイズムと、築くことに重心を置いたシュルレアリスム、というのが最も大きな違いです。
技法や手法の違い
ダダイズムは偶然性やナンセンスを重視し、既製品をそのまま提示するレディメイドや、言葉をバラバラにするフォトモンタージュなどの手法を用いました。
シュルレアリスムは無意識を引き出すことを目的に、自動筆記やデペイズマン、デカルコマニーといった、より体系だった技法を発展させました。
時代背景と流れの違い
ダダイズムは第一次世界大戦という直接的な衝撃から生まれた、いわば戦争への抵抗としての側面を持つ運動でした。
シュルレアリスムはその数年後、ダダイズムが行き詰まりを見せた後に、フロイトの理論という新しい思想的土台を得て発展した運動です。
つまり時系列としては、ダダイズムが先にあり、その流れを受け継ぎながらシュルレアリスムが生まれたという関係になります。
ダダイズムからシュルレアリスムへ─歴史的なつながり
ダダイズムとシュルレアリスムは対立する部分もありますが、まったく無関係な運動ではありません。
むしろシュルレアリスムは、ダダイズムという土壌があったからこそ生まれた運動だと私は捉えています。
ダダイズムの限界とシュルレアリスムの誕生
ダダイズムは既存の価値観を壊すことには成功しましたが、壊した後に何を作るのかという問いには答えを持っていませんでした。
破壊そのものを目的としていたため、運動として長く続けることが難しかったのです。
その中からアンドレ・ブルトンをはじめとする作家たちが、フロイトの精神分析学という新しい理論を手がかりに、破壊の先にある新しい表現を模索し始めました。
それが、シュルレアリスムという形で結実していったのです。
私がボールペン画で表現するシュルレアリスム的な世界
ここまでは美術史としてのダダイズムとシュルレアリスムをお伝えしてきましたが、ここからは私自身の制作についてお話しします。
連想と妄想から生まれる作品づくり
私はボールペン画に色鉛筆で色をつけながら、連想イラストやシュルレアリスム的な絵を描いています。
また、フォトショップでの描画やコラージュによって、モンスターデザインを制作することもしています。
小さいころ、モンスターデザインをしていたので、大学のころにモンスターデザインをもう一度しようとしましたが、うまくいきませんでした。
それからヤン・シュヴァンクマイエルの作品に出合い、コラージュでならモンスターデザインできると思いコラージュを始めました。
しかし、何となくまとまらず、数年そのように作っていました。
近年になり、コラージュでの作品制作から、ボールペン画の作品制作することが増えました。
その中で陰影をつけて表現をしているうちに、コラージュでも陰影をつければまとめられるのではないかと最近思い、試してみるとまとめられる事がわかり、ちょっとした感動を覚えました。

私が大事にしているのは、連想する力、妄想する力、空想する力です。
頭の中にしかなかったものが紙の上に形になっていく瞬間は、シュルレアリスムの作家たちが無意識を形にしようとした営みと、どこか通じるものがあると感じています。

これまで、シュルレアリスム的なボールペン画を30点以上、モンスターデザインを100点以上作ってきました。
まとめ─違いを知ると美術鑑賞がもっと楽しくなる
ダダイズムは既存の価値観を壊すことを目的とした運動であり、シュルレアリスムは無意識という新しい領域から表現を築こうとした運動です。
この違いを知っておくと、美術館で作品を見るときにも、その作品がどちらの流れをくんでいるのかを意識しながら鑑賞できるようになります。
私自身も、シュルレアリスム的な表現やモンスターデザインの制作を通じて、見てくださる方の連想する力や想像する力を豊かにできたらと思っています。
興味を持っていただけた方は、下記のnoteで作品をご覧いただけると嬉しいです。
よくある質問(FAQ)
Q. ダダイズムとシュルレアリスムはどちらが先に生まれたのですか?
ダダイズムが1916年頃に、シュルレアリスムが1924年頃に始まっており、ダダイズムの方が先に生まれています。
Q. ダダイズムとシュルレアリスムは対立する運動なのですか?
対立する部分もありますが、シュルレアリスムはダダイズムの流れを受け継ぎながら発展した運動でもあるため、単純な対立関係だけでは説明できません。
Q. 日本でシュルレアリスム的な表現に触れられる場所はありますか?
美術館の企画展のほか、個人の作家がnoteやSNSで発表している作品からも、シュルレアリスム的な表現に触れることができます。


















